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町山智浩が語る映画『ラッシュ/プライドと友情』「人生にはライバルが必要」

2014.01.29 (Wed)
2014年01月28日放送のTBSラジオ系のラジオ番組『たまむすび』(毎週月-金 13:00 - 15:30)にて、映画評論家の町山智浩が電話出演し、2月7日に日本公開となる映画『ラッシュ/プライドと友情』について語っていた。

ニキ・ラウダ 不屈のチャンピオン
ニキ・ラウダ 不屈のチャンピオン (ドライバー・プロファイル・シリーズ)

ジェームス・ハントとニキ・ラウダ

町山智浩(以下、町山):76年のF1ブームがあったころ、トップを走ってたのはニキ・ラウダだったんですよ。

山里亮太(以下、山里):ほぉ。

町山:その人を追いかけていたのが、ジェームス・ハントという選手だったんですね。

赤江珠緒(以下、赤江):はい。

町山:その2人のチャンピオン争いを描いた作品が、『ラッシュ/プライドと友情』なんです。

山里:はい。

町山:この映画の凄いところが、ジェームス・ハントというレーサーが、生涯に5000人とエッチしたって人なんですね。人生あまり長くなかったんですけども。

赤江:ほぉ。

町山:この人は本当に天才型で、直感で走る人なんですね。センスと度胸だけで。写真写るとき、いつも女の子に身体くっついてるんです(笑)

赤江:本当だ(笑)

町山:日本では東京ヒルトンホテルに泊まってたらしいんですけど、そこにはスチュワーデスさんが泊まるホテルだったんで、大変なことになったそうですよ(笑)

山里:そこに何人かが。

町山:33人のスチュワーデスプラス、日本の女の子っていう。

赤江:へぇ。

町山:日本の女の子とは、レース場でもヤってたので、みんな見てたというね(笑)

山里:応援できない!ニキ・ラウダを応援する。

町山:でしょ?仲間だね(笑)このジェームス・ハントって人は、レースの直前までお酒飲んでるんですよ。

山里:え?

町山:景気付けではなくて、ずっと飲んでるんです。しかも、ちょこっとじゃなくて、シャンパンをぐびぐび飲んでて、ラッパ飲みしてんですよ。

山里:飲酒運転じゃないですか。

町山:えぇ。昔だから許されたと思うんですけどね。飲んでるところ、写ってるんですよ(笑)

山里:凄いな。

町山:この人のアダ名は、「壊し屋」だったんですね。乱暴なドライビングだったんで、マシーンを壊しちゃうんです。

赤江:奔放ですね。

町山:ロックスターのようなレーサーがジェームス・ハントですね。それに対する、ニキ・ラウダは、完全に緻密な人で。「走るコンピュータ」とかって言われてる人で、レースのコンディションとかクルマのコンディションが、音を聞いただけで分かって。しかもそれを的確に直せるっていう。

赤江:へぇ。

町山:ただ、彼はあまり見た目が良くなかった。ちょっと出っ歯で。ジェームス・ハントは、ニキ・ラウダが大嫌いで、「このネズミ野郎」って言ってたんですね。ヒドイでしょ?

赤江:大人げないですね(笑)

町山:性格が全く違って。ワガママで天才な女好き。もう一方、ニキ・ラウダは女性に「私はレーサーです」って言うと、「ウソだぁ」って言われちゃう人なんですよ(笑)

山里:応援したい(笑)

町山:F3の頃からのライバル関係で、それを描いた映画なんですね。でも、お互いが嫌いで嫌いでしょうがないんですよ(笑)

赤江:見事に対極ですもんね。

ニキ・ラウダの大事故

町山:ドイツのレース場で、雨が降って、コンディションが悪くなるんです。

山里:はい。

町山:ニキ・ラウダは、「今、レースするのは非常に危険だ。俺達は命がけでレースしているけど、命を無駄にするためにレースやってるんじゃないんだ」って言って、レース放棄をレーサーたちに呼びかけるんです。

山里:はい。

町山:ところが、ジェームス・ハントは、「こいつは今、チャンピオンだから、試合数が少なくなればなるほど、有利になるんだ。だからこいつは中止にしようとしてんだ。デマカセに乗るんじゃねぇ」って言うんです。

山里:イヤなヤツ。

町山:ジェームス・ハントの方が豪放磊落だから、レーサー間でも人気あるんですよ。ニキ・ラウダは真面目な優等生だから、あまり好かれていない。だから、ジェームス・ハントの意見に賛同する人が多くて、レースが決行されてしまうんですよ。

山里:はい。

町山:それでレースが開始になって、ニキ・ラウダは大事故を起こして、大爆発を起こしてしまうんです。

山里:いやぁ…。

町山:危険だから走るな、という通りになってしまうんですよ。

山里:はい。

町山:爆発すると、他のレーサーはクルマを停めて、ニキ・ラウダを助けようとするんですけど、ジェームス・ハントは、「ラッキー」って感じでスルスル抜けて行くんですよ(笑)

山里:ヒドイ。

町山:ニキ・ラウダは、ジェームス・ハントが優勝したレースの後に、「アイツのクルマは、1 cmくらい規定のサイズよりオーバーしてるぞ」って、実行委員会に言いつけたんですよ。

山里:ほぉ。

町山:それで、たしかにオーバーしてて、ジェームス・ハントの勝ちがなくなってしまう。それでジェームス・ハントは恨んでたから、ニキ・ラウダは、事故っても平気で走り続けるんです。物凄い関係でしょ?

赤江:えぇ。実話というか、この関係が本当だったんですもんね。

町山:逐一報道してて。ニキ・ラウダは、クルマが爆発して、その煙を吸い込んでしまうんです。全身やけどで、さらにヒドイのは、有毒ガスを吸ってしまって、それを取り出す手術をするんですよ。

赤江:えぇ?

町山:しかも、麻酔無しなんです。

山里:え!?

町山:普通だったら、耐えられないような苦痛らしいんですね。でも、それを吸い出さなければ死んでしまう。その手術をしている間、テレビを付けさせるんです。ジェームス・ハントが、「ラッキー」って感じで、トップを走ってる時の映像を見ながら、「バカ野郎!てめぇなんかに負けてたまるかよ!」って頑張って、手術を乗り越えるんです。

山里:えぇ!?

赤江:壮絶。

町山:互いのライバル心が凄いんですよね。互いに勝つことを目指して、生き続ける話なんです。そのライバル関係があったから、自分たちの実力以上の力を出していくことができるんです。

山里:そうですね。

町山:敵がいないと、実力以上のものは出せないんですよね。

ニキ・ラウダの復活

赤江:ライバル関係はあるけど、友情は?

町山:ニキ・ラウダは、大やけどで顔が焼けただれ、耳もほとんどなくなってしまう。それで太腿の皮膚を顔に移植して、凄まじい顔になってしまうんですね。

赤江:はい。

町山:でも、それですぐにレースに復帰するんです。

山里:すぐ?

町山:死ぬか生きるかのところにいたのに。当時、『アローエンブレム グランプリの鷹』ってアニメがあったんですけど、この中に、ニック・ラウダってレーサーが出てきて、その人が火傷をマスクで隠したレーサーなんです。

山里:完全に、ニキ・ラウダですね。

町山:そうなんです。全身焼けただれ、生死の境をさまよいながらも復帰したということで、当時、子供たちのカリスマだったんですよ。

赤江:その怪我でね。

町山:奇跡でなく、根性ですよね。ここでなんですけど、もしジェームス・ハントがいなかったら、その復活があったのだろうかってことなんですよ。

山里:なるほど。

町山:アイツがいるから、何が何でも復帰してやるぞ、と。それに対して、ジェームス・ハントも応えるわけです。

山里:はい。

町山:ジェームス・ハントが追いついていく中、同点となり、富士スピードウェイでの決勝戦となるわけです。

山里:あぁ!

町山:凄いでしょ?神様が書いたシナリオですよ。

赤江:はい。

町山:最終決戦で、勝った方がチャンピオンとなるんですね。当日、富士スピードウェイ、豪雨となって。みんな楽しみにしてたのに…それでどうなるのか、というのがクライマックスですね。


町山:最後、人生におけるレースのチャンピオンは、どちらだったか、という話になるんですね。

山里:あぁ。

町山:深い映画になってますね。

赤江:こんなに見事にタイプの違う天才がいるかっていうね。

町山:ジェームス・ハントは、瞬間、瞬間を生きて、そこにすべてを尽くす男なんです。一方、ニキ・ラウダは、そうではないんです。彼はどういうレースを見ているのか、ということに後半なっていくんですけどね。

赤江:観たいですね。

町山:最後、ニキ・ラウダが良い言葉を言うんですね。バルタザール・グラシアンというスペインの哲学者の言葉を引用するんです。「偉大な者というのは、凡人が味方から得るよりも、遥かに多くのことを敵から得る者のことを言う」って言うんですね。

山里:あぁ。

町山:本当に偉大な者は、敵から多くのことを得る者という、というね。

赤江:これは深いですね。

山里:ちゃんと敵がいるところに、身を置かなきゃダメだな。

町山:人生には、ライバルが必要なんですよ。ライバルがいると、自分の力の何倍もの力が得られるんです。闘いの中から、何かを見出す人が、本当に強い人なんですね

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