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町山智浩「アカデミー賞最有力候補『ローン・サバイバー』の誕生秘話」

2013.12.18 (Wed)
2013年12月17日放送のTBSラジオ系のラジオ番組『たまむすび』(毎週月-金 13:00 - 15:30)にて、映画評論家・町山智浩が『ローン・サバイバー』(原題:LONE SURVIVOR、2014年3月21日公開予定)について語っていた。

『ローン・サバイバー』に登場するネイビーシールズ

町山智浩「ネイビーシールズ(注釈:Navy SEALs、正式名称はUnited States Navy SEALs)の人たちに取材してきまして。ネイビーシールズというのは、アメリカの海軍特殊部隊でして」

山里亮太「はい」

町山智浩「訓練期間中に85%が脱落するという部隊でして」

山里亮太「えぇ…厳しすぎて?」

町山智浩「えぇ。精神的に徹底的に拷問するところで、たとえば両手両足を縛ってプールに投げ込むとかするんです」

赤江珠緒「え?死ぬじゃないですか(笑)」

町山智浩「そういうことを繰り返しているところで、耐えた15%しか残らないんです」

山里亮太「スゴイ15%ですね」

町山智浩「どれくらいスゴイかというと、先日公開された『キャプテン・フィリップス』って映画がありまして、最後に海賊を狙撃するのがネイビーシールズなんです」

山里亮太「はい」

町山智浩「針の穴を通すような狙撃をするんです」

山里亮太「はい」

町山智浩「揺れてる船の上から、揺れている小さなボートの小さな窓に映る犯人を3人同時に射殺するという、スゴイ狙撃をします」

山里亮太「ほぉ…」

赤江珠緒「それがネイビーシールズ?」

町山智浩「はい、そういうことが簡単にできる人たちが集まってる特殊部隊が、ネイビーシールズなんです。Navy SEALsと書くんですが、SEAlは、se:sea 海、A:air 空、L:land 陸で、陸海空を制覇する男たちって意味です」

山里亮太「へぇ」

町山智浩「もっとも危険な場所に現れて、任務を遂行して消えていくっていう、忍者部隊みたいなものですね」

山里亮太「へぇ」

町山智浩「元々、ベトナム戦争で、ゲリラに困ったアメリカが、『ゲリラにはゲリラだ』ってことで、忍者みたいな部隊を作ったのが最初です。『ゼロ・ダーク・サーティ』って映画でも取り上げられていましたが、ウサマ・ビンラディンを暗殺した部隊が、ネイビーシールズです」

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山里亮太「あぁ」

町山智浩「敵地に行って暗殺して帰ってくる、みたいなことをやる部隊ですね」

赤江珠緒「精鋭部隊ですね」

町山智浩「その人たちに、会いに行ったんです。マーカス・ラトレルさんって人に会いに行ったんです。その人が、アフガニスタンで自分の部隊が全滅して、立った一人の生き残りになった人なんです」

赤江珠緒「現役の方ですか?」

町山智浩「いえ、引退された方です。『アフガン、たった一人の生還』って本の著者なんです。その体験が、映画になりまして、『ローン・サバイバー』って映画です」

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アフガン、たった一人の生還 (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)

『ローン・サバイバー』のストーリー

町山智浩「2005年6月に起こった事件で、物凄く有名になったのは、ハーバード大のマイケル・サンデル教授が、『ハーバード白熱教室』で取り上げた問題なんです」

ハーバード白熱教室講義録
ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(上)

山里亮太「はい」

町山智浩「アフガニスタンとパキスタンの国境地帯で、山岳地帯があるんですけど、2000 m 級の山がある。そこに、タリバンの戦略家がいるんですね。その彼を拉致するか暗殺しなければならない」

山里亮太「はい」

町山智浩「その彼を偵察に行くってことで、ネイビーシールズの4人が空から潜入するんですね」

山里亮太「はい」

町山智浩「その男は、アフマッド・シャーって男なんですけど、ネイビーシールズの4人は完全に敵地に入っていくんです。そして偶然、100匹くらいヤギを放牧している農民3人と遭遇するんです」

山里亮太「はい」

町山智浩「老人と子どもと、お父さんだったんですけど、彼らを捕まえて腕を縛るんですけど、『どうしようか』ってことになるんです。足を縛るロープなどもない。だけど、彼らをそのままにしていたら逃げて、アフマッド・シャーたち200人くらいのゲリラの村に行ってしまうだろう、と」

赤江珠緒「はい」

町山智浩「行かれたら、我々4人は包囲されて殺される、と。脱出する時間もないだろう、と。そこで『殺してしまおうか』って話になるんです」

赤江珠緒「でも、民間人ですよね?」

町山智浩「普通の農民なんです。それはできない、と。法律違反になってしまうから。でも、逃したら我々は殺されてしまう、と。どうするかってことで、4人で悩んで話し合いをするんですね。『彼らは何も悪くないが、命を奪ってしまうしかないんじゃないか。これは一種の正当防衛だ』と言う人もいるし、『そうじゃない』って人も2人いて」

赤江珠緒「はい」

町山智浩「一人は何も決められないってことで、結局、2対1で生かすことを決めるんですね。ラトレルさんも、『軍規としてできない、そしてキリスト教徒としてもできない』と」

山里亮太「あぁ」

町山智浩「結局逃して、すぐにたくさんのゲリラに囲まれてしまったんですね」

赤江珠緒「案の定、みつかるんですね」

町山智浩「見つかってしまって、しかも敵は物凄く頭のいい、アルカイダとタリバンのリーダーなんで、戦略的に彼らを追い詰めていって、結局、ラトレル氏を除く三人は殺害されてしまうんですね」

山里亮太「はい」

町山智浩「部隊の応援をしようにも、山岳地帯なので、通じない。そこで、電波の通じやすい、見通しの良い場所に移動して電話をするしか、応援は呼べないんですが、撃たれる可能性がある。でも、その危険を犯すことで、3人を助けることができるのかもしれない、という状況になるんですね」

山里亮太「あぁ」

町山智浩「最初の選択は、『罪のない農民の命を奪うかどうか』。そして次は、『他の3人を救うために、誰か1人が犠牲になって電話をかけるかどうか』という選択があるんですね」

山里亮太「あぁ」

町山智浩「次々と究極の選択が迫られるんですね。しかも、敵がどんどんとロケット砲を撃ってくるんです」

山里亮太「えぇ」

町山智浩「弾は当たらなくても、ロケット砲の破片で、体中が穴だらけになってるんです」

山里亮太「はい…」

町山智浩「結局、救援部隊に電話が通じるんです。尊い犠牲によって。救援部隊が、16人のスゴイ部隊を連れて、大型ヘリコプター・CH-47チヌークってヤツで助けにくるんです」

山里亮太「はい」

町山智浩「でも、敵が頭がよくて、それを待ってたんですね。ロケット砲でヘリコプターを撃墜して、その場で16人死亡してしまうんです」

山里亮太「えぇ…」

町山智浩「合計、19人死んでるんです。ラトレル氏は、1人で逃げていくんですね。12 Kmくらい逃げたところで、アフガニスタンの村人に出会うんですね」

山里亮太「はい」

町山智浩「今度は、アフガニスタンの村人たちの選択になるんですね。傷ついてボロボロになったアメリカ兵を、どうするか。放っておいたら死ぬ。でも、助けたら、タリバンに攻撃されてしまう…そういう選択になるんです」

山里亮太「いや…スゴイ。その人に、直接、話を聞いてきたんですもんね」

町山智浩「聞いてきたんです。体中、傷だらけなんですが、両腕にタトゥーが入れてあって、右腕には亡くなってしまったチームの3人の仲間の名前で、左腕にはヘリコプターで亡くなった人たちに捧げて、タトゥーを入れてたんです」

山里亮太「ヤギを飼ってた人たちの命を奪っていれば、19人の命が助かったかもしれないんですよね」

町山智浩「死ななかったかもしれないですね。ラトレル氏は、19人の兵士の遺族のところを回るだけの生活になってるんですね。凄く辛いのが、遺族は口にしないですけど、『なんでウチの息子でなくて、あなたが死ななかったの』って感じなんですよ」

赤江珠緒「そうなりますよね」

町山智浩「凄く辛いけども、会いに行く。『俺に怒りをぶつけて、それで癒されるのだったら』ってことで回ってるんです」

山里亮太「えぇ」

町山智浩「本や映画は当たると思うんですけど、その収益は遺族に回るって形になってます」

山里亮太「そうなんですね」

町山智浩「彼は助けてくれたアフガニスタンの人たちに感謝してましたね。『俺はキリスト教を信じ、アフガニスタンの人たちは、イスラム教を信じている。だけど、違いはない』って言ってましたね」

山里亮太「助けた村の人達は、どうなったんですかね?」

町山智浩「それは、映画のエンドロール後に写真として出てきます。だから、言いません(笑)」

『ローン・サバイバー』ピーター・バーグ監督の制作秘話

町山智浩「監督はピーター・バーグって監督で、この人は究極のバカ映画と言われている、『バトルシップ』を作った人です」

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山里亮太「あぁ」

町山智浩「バカな映画で、女の子が『小腹空いた』っていうんで、食べ物をあげるために、主人公が泥棒に入って捕まるとか(笑)ありえないことばっかりして、全然、主人公に感情移入できない映画だったんですけどね」

山里亮太「はい」

町山智浩「浅野忠信さんも出てましたね。トイレでケンカしたり(笑)」

山里亮太「そんな映画の監督が?」

町山智浩「200億円使って、1/4も稼げなくて大変なことになった映画を作ったのが、ピーター・バーグだったんですけどね。その監督に訊いたんです。『なんであんな映画を撮ったんですか?』って」

赤江珠緒「その質問を?(笑)」

町山智浩「そしたら、『僕はこの"ローン・サバイバー"を撮りたかったんだ』って。アメリカ海軍とユニバーサル映画に話しをしたら、『まずバトルシップを撮れ』と言われたんですって」

山里亮太「ほぉ」

町山智浩「上手くいったら、『ローン・サバイバー』撮らせてやるって言われたんですって。それで、くだらないと分かっていながらも、『バトルシップ』を撮ったら失敗してしまって。『ローン・サバイバー』が撮れなくなっちゃったんですよ」

赤江珠緒「成功したらって話でしたもんね」

町山智浩「大失敗したら、バカ監督になっちゃったんで、撮れなくなってしまった。そしたら、この映画の主役をやりたいっていうマーク・ウォールバーグって俳優さんが、『ピーター・バーグ監督に映画を撮らせてやってくれ』って言ったんです。それで周りを説得して、『ローン・サバイバー』が出来たんです」

赤江珠緒「マーク・ウォールバーグって、『テッド』に出てきた人じゃないですか」

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町山智浩「そうです。いつまで経っても子供な中年をやってましたけど、良い人なんですよ、この人」

山里亮太「マーク・ウォールバーグは、ピーター・バーグのことを監督としての才能に気づいてたってことですか?」

町山智浩「いや、この人は困った人を助けるような仕事ばっかりしてるんです。その前は、デヴィッド・O・ラッセルって監督がみんなから嫌われてハリウッドで映画を撮れなくなった時にも、『ザ・ファイター』って映画撮らせてるんですね」

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山里亮太「へぇ」

町山智浩「マーク・ウォールバーグは、若い頃にチンピラで、行きずりの人を暴行傷害して、片目を失明させるってことやって、刑務所に入った人なんですよ」

山里亮太「へぇ…」

町山智浩「それで今、反省して良い人になろう、良い人になろうって一生懸命頑張ってる人なんですよ」

山里亮太「ほぉ」

町山智浩「それでこの映画が出来たんです。…ラトレルさんに、『こんなことになったけども、農民を助けたことをどう思うか?』って訊いたら、『後悔してない』って言ってましたね。『後悔したと言ったら、死んでった兵士に』申し訳ない、と」

赤江珠緒「それはそうですね」

町山智浩「でも、大変ですね。答えは何にでもあるわけでは無いんですよ。19人の命を負って生き続けるので、下手なことで転んで死んだりできないんですよ」

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