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町山智浩×春日太一「東映などの映画会社と闇社会の結びつき」

2013.11.24 (Sun)
2013年11月19日放送の「たまむすび」にて、春日太一がゲスト出演し、町山智浩と東映の創世記について語られていた。

あかんやつら 東映京都撮影所血風録
あかんやつら 東映京都撮影所血風録

柳生一族の陰謀などのめちゃくちゃな映画

町山智浩「『柳生一族の陰謀』って、トンデモナイ映画なんですよ」

山里亮太「柳生十兵衛とかが出てくる映画ですよね?」

町山智浩「そうそう。まともな時代劇だって見ると、ひっくり返りますからね(笑)」

春日太一「『仁義なき戦い』の時代劇版みたいな感じで作ってるんです。だから、『仁義なき戦い 小田原死闘編』みたいな感じで」

山里亮太「やたらめったら抗争があって死にまくるみたいな?」

春日太一「そうなんです。色んな裏切りがあって、分けわからなくなって」

町山智浩「しかも、殺陣が地に足がついた殺陣じゃなくて、ポンポン飛びますから」

山里亮太「うわ(笑)」

赤江珠緒「忍びの者たちですからね」

町山智浩「そう。空をバンバン飛んでますから。仮面ライダーみたくなってますから」

春日太一「JACの人たちが、『初めてトランポリンを使った』って言ってましたから」

山里亮太「へぇ~。そういうのがない、地味目な渋いのが時代劇だと勝手に思っちゃってたから」

町山智浩「『柳生一族の陰謀』は、お祭りみたいな映画ですから」

春日太一「時代劇は、子供の頃から観てた方が、実は馴染みやすいんです。大人になってからよりは」

山里亮太「食わず嫌いでしたね」

春日太一「そう。普通に楽しいのたくさんありますから」

ならず者の集まりだった東映創世記

山里亮太「相当、めちゃくちゃな人たちが作ってるって聞いたんですけど」

町山智浩「春日さんは『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』って本を出されてますが…冒頭でもう言っていいのか悪いのか分からないですけど、東映が始まった頃は、映画人なのかヤクザなのか全く分からない状況だった、と

赤江珠緒「そうですね。私も読まさせていただいて、ほとんど戦後のならず者の人が集まってたりとか、血なまぐさい事件みたいなのが色々あったり。身を張ってスターを守ります、みたいな

山里亮太「登場人物、もうそういう人たちの映画みたいですもんね(笑)」

町山智浩「そうそう(笑)僕が子供の頃、すでにそうだったんですけど、撮影会社ってお風呂あるんですよ。撮影終わったらみんなお風呂入って。そこの人たちは、ほとんど、体に模様がある人たちだったという(笑)」

山里亮太「派手な(笑)」

赤江珠緒「柄入りだったんですね」

町山智浩「そう(笑)それが普通だったみたいですね。昔は大工さんとか、そういった人たちもそうだったんです。職人さんは、みんな刺青が入ってる人が多かったですね。僕が子供の頃とかは。映画の世界も、職人さんが多くいたんですね」

春日太一「そうですね。後に東映がヤクザ映画を撮るようになるんですが…大部屋の俳優さんに聞いたんですが、『みなさん、本物っぽいですよね』って言ったら、『撮影所はそういうところだからな』って(笑)」

町山智浩「本物だから(笑)」

春日太一「『普段から慣れてるから、自然とそうなっていくんだよ』と」

山里亮太「役作り完璧なんですね(笑)」

春日太一「元がそういう社会だから。佇まいがみんなそうなんです」

町山智浩「だからこそ間違いがなくて、『本物はこんなことするか、しないか』みたいな迷いがないんです」

山里亮太「なんで知ってるんだよって言われたら、『普段からそうだし』っていう(笑)」

町山智浩「だからこそ面白いんです。リアリティがあって。『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』でも書き出しで、門番のガードマンの人の小指が無いってところから始まるんですよね」

赤江珠緒「うん、うん(笑)」

町山智浩「あと、牧野(牧野省三)さんという日本映画の父みたいな人たちとその一族の人たちの話が出てきてて。牧野一族というのは、その末裔が…」

春日太一「津川雅彦さんなんですね」

山里亮太「津川さんは、映画撮るとき、名前変えてますよね」

春日太一「そうなんです。マキノ雅彦の名前でやってるんです。撮るときは、『牧野一族の人間だ』ということでやってるんですね」

山里亮太「伝説の一族なんですね」

町山智浩「映画一族なんです。…みんなヒロ○ン打ちながら映画作ってますね(笑)」

春日太一「当時は合法ですからね(笑)」

山里亮太「栄養ドリンクみたいな感じだったんですよね」

赤江珠緒「差し入れみたいな感じで(笑)」

春日太一「看護師さんが、『どうぞ~』みたいな感じで言うと、スタッフさんが並ぶんです。それで一人ずつ打っていくという、そういう時代なんです」

山里亮太「寝ずにやってたから」

東映の撮影方法

町山智浩「東映の撮影方法は乱暴で。けが人続出っていう凄い世界なんですけどね。それで『集団抗争時代劇』っていうのが流行った時期があるんですよ」

赤江珠緒「はい」

町山智浩「火付け役は黒澤明で」

春日太一「そうです」

町山智浩「『七人の侍』とか、『用心棒』とか。昔はチャンバラは音がチャンチャンバラバラって音がするからチャンバラって呼ばれてたんですけども。昔の時代劇は、人を斬っても血が出ないんですよ」

赤江珠緒「あぁ」

町山智浩「今の時代劇もそうなんですよ。でも、黒澤明から血が出て、ブシュっとか骨を斬る音が出るっていうのが始まって、それが流行ったんですよ」

山里亮太「あぁ」

町山智浩「それが当たったので、東映が真似し出したんです」

春日太一「そうです。もっと残酷にできないかという感じで」

町山智浩「そしたら、やり過ぎてデタラメになっていくんです(笑)カメラも大乱闘の中に入っていって、カメラマンも転んでるんです。それが凄かったのが、工藤栄一っていう監督が撮った一連の集団抗争時代劇シリーズっていうのがあるんですけど」

山里亮太「はい」

町山智浩「最初は、『十三人の刺客』で、その次に『大殺人』って映画を撮るんですけど、それが凄いんですよね」

春日太一「当時、高度経済成長期真っ只中だったんですけど、その時に、あるドブ川でみんなで乱闘するチャンバラのロケをやってたんです。それで水が立って、それで水が口に入ってくるんです。ドブ川の水が」

赤江珠緒「はい」

春日太一「高度経済成長期だったので、ヘドロや生活排水が凄まじいところで、みんな撮影をしながらお腹を下していくっていう」

赤江珠緒「ふふ(笑)」

春日太一「腹が痛くて、里見浩太朗さんとかもおかしくなっていって。グチャグチャのヘドロまみれになるんです。ロケ先に宿泊先もないので、滋賀から京都に戻るんです。みんな泥まみれで青ざめたヤツらが下りてくるので、なんの撮影が行われてるのか、と(笑)一人、また一人と役者が倒れていくっていう」

山里亮太「ゾンビ映画みたいですね(笑)」

町山智浩「しかも、殺陣をつけてないんです。とにかく、刀を持たせて斬り合いをしろっていって、カメラ割りもちゃんとやってないんです」

赤江珠緒「アドリブで?」

町山智浩「そう。それでカメラマンもいきなりコケてますから(笑)」

春日太一「殺陣師が後ろから『いけー!』とか叫んでるんです(笑)殺陣師は怖いんで、逃げられなくて(笑)その迫力が映画にあらわれてますね」

町山智浩「レンズが泥だらけですから。時代劇なのに、レンズがあるってことがよくわかるんですよ(笑)あと、倒れてる人のパンツが見えてるシーンもあります」

春日太一「面白ければそれで良いというね」

町山智浩「今だったら撮れないですよ。けが人も出て」

春日太一「昔は何でもありで。面白いものを撮るためには、命がけで何でもやるぞ、という。それが当然だという」

赤江珠緒「しかも大量生産しなきゃいけないって」

春日太一「年間100本ですからね。週に2本。テレビドラマよりも凄い時代で」

町山智浩「テレビが無い時代なので、毎週、毎週、映画館で新しいシリーズを見れるって時代だったんですね」

春日太一「しかも二本立てですからね。年間100本、しかも時代劇だったから、物凄い大変だったんですね。撮影所の空が夜になると赤く染まった、という」

山里亮太「え?」

春日太一「夜中までずっとライトを照らしてて、そこだけ明るいので、撮影所の上だけ真っ赤になってるっていう、そういう時代だったんです」

町山智浩「仁義なき戦いも、1本目と2本目の間が、2~3ヶ月くらいなんです」

山里亮太「え?だいたい、シリーズものって1年くらい空きますよ」

町山智浩「今の映画って、企画から完成まで4年とか掛かるんですよ。早くても2年とかね。でも、仁義なき戦いは1本目が大当たりしたので、すぐに続編を公開して」

春日太一「仁義なき戦いは、試写で観たらみんな面白いって言ってるんで、『続編いけ』ってことになったんです。でも、ネタがないぞそんなにって慌てて」

山里亮太「へぇ~」

春日太一「73年の興行収入は、仁義なき戦いが4本入ってて。その年に4本撮られてるんですね」

町山智浩「3ヶ月に1本撮ってるんですね。物凄いですね、あのシリーズは。特に2本目は、わずか2ヶ月しか準備期間ないのに、大傑作なんですよ。千葉真一さんが、放送出来ないようなセリフをずっと言い続けているという(笑)」

山里亮太「ありましたね(笑)」

町山智浩「昔はアレをテレビで放送してたんですけどね(笑)」

春日太一「僕が中学時代にゴールデン洋画劇場かなんかでやってて」

町山智浩「映画史上、最低なセリフを千葉真一さんがしゃべるのが『仁義なき戦い 広島死闘篇』なんですよ(笑)」

若山富三郎の変貌

町山智浩「あと、役者も自分自身とヤクザの区別がつかなくなっていく(笑)特に若山富三郎さんが面白いんですよね」

春日太一「そうなんです。若山富三郎さんは、勝新太郎さんのお兄さんですけども、元々、親分肌が強いせいもあって、極道シリーズを始めるんですけども、その子分たちを本当の子分と勘違いしだすという」

町山智浩「山城新伍さんとかね」

春日太一「菅原文太さんとか、八名信夫さんとかみんないるんですけど、普段から劇で使ってる同じ制服を着て、『若山組』って名乗って、看板まで作っちゃって」

町山智浩「俳優だってことを忘れちゃったんですね(笑)」

春日太一「撮影の時も、『よーい、スタート!』って言われても、そのままいくっていう」

山里亮太「ドキュメント撮ってる感じの(笑)」

町山智浩「ケンカが始まると、本当に抗争になっちゃうんですよ。俳優同士で」

春日太一「もう一人、鶴田浩二さんって人も、役に入っちゃうと、見境なくなってしまって。ある日、劇の中で八名信夫さんが若山さんから鶴田さんに裏切るって設定があったら、そしたら若山さんがキレちゃったんですよ。『八名許せない』って、ぶん殴っちゃって」

山里亮太「はっはっはっ(笑)」

春日太一「そしたら、鶴田さんも鶴田さんで、『俺の子分になにしやがる』って(笑)」

町山智浩「シナリオなのに(笑)」

春日太一「鶴田さんも自分の子分がやられた気になっちゃって、抗争になっちゃうという(笑)」

山里亮太「『地獄でなぜ悪い』のあの感じですよね?」

町山智浩「そう。園子温監督の『地獄でなぜ悪い』は、みんなバカバカしいと感じるかもしれないけど、ほとんど事実なんですよ。映画って、本当にそうなんですよ」

赤江珠緒「映画のベースは」

町山智浩「そう。ああいう人たちなんですよ」

この話の続きはこちら:町山智浩×春日太一「俳優界の最強は渡瀬恒彦」

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