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ジブリ・鈴木敏夫が語る「宮崎駿監督最新作品・風立ちぬ制作秘話」

2013.06.24 (Mon)
2013年06月23日放送の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」にて、宮崎駿監督最新作品『風立ちぬ』制作秘話について語っていた。

インタビュアーは、ロッキンオンジャパン代表取締役・渋谷陽一である。『風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡』などの宮崎駿論、インタビュー集を出版している人物でもある。

『風立ちぬ』のテーマ

風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡鈴木敏夫「宮さん(宮崎駿)は、ポニョの後に何を作るかっていう。これはね、僕ねモデルグラフィックスっていう模型の雑誌があって。この雑誌は一部の好事家が読む雑誌なんですけど、『風立ちぬ』の連載をしてて。それをね、映画化したいなぁって思ってたんですよ」

ロッキンオンジャパン・渋谷陽一「うん、うん」

鈴木敏夫「理由は色々あるんですけど、第一にゼロ戦の設計をした堀越二郎って人の話は伝わってると思うんですけど、この映画を作れば、宮崎駿の戦争観、それが出てくるかなぁって思ってね。それでね、この間(宮崎駿と)ずっと付き合ってきて、かなり好戦的な人だっていうのは分かってたんだけど(笑)」

渋谷陽一「ふふ(笑)」

鈴木敏夫「その人物が、戦争モノをどう作るか、興味あるでしょ?渋谷さんだって分かるでしょ?好戦的だよね、あの人」

渋谷陽一「好戦的です(笑)」

鈴木敏夫「まさか、好戦的な映画を作るわけにもいかないでしょ?(笑)そこに大きな興味があったんですよ。それで僕はね、『風立ちぬをやろう』って言ったのは、もう3年くらいだったですね。夏だったですけど」

渋谷陽一「えぇ」

鈴木敏夫「そしたらね、珍しく宮さんが本当に怒りだしちゃって」

渋谷陽一「あらま」

鈴木敏夫「僕のことをね、怒鳴りつけたんですよね。『何、考えてんだよ鈴木さん!』って」

渋谷陽一「うん」

宮崎駿は、映画化を拒否していた

鈴木敏夫「宮さんってね、『アニメーションはこうあるべきだ』って考えがあるんですよ。つまりは、『絵で描いた映画っていうのは、原則として子供が観るものである』って。大人のものにしちゃいけない、だからそれは企画として間違っているっていうんですよ」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「たしかにその通りなんです。でも、宮さんって人は僕が付き合ってきて、とにかく日常的に喋ってても、すぐにイタズラ描きするんだけど、戦闘機とか描いてるんですよ」

渋谷陽一「ふふ(笑)」

鈴木敏夫「それくらい、そっち関係得意なんですよ」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「宮さんの戦争への造詣の深さは僕はよく知ってましたからね」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「それを模型雑誌の隅っこの方で、そうやって連載してたのはいいけれど、なんかそれを世に問うべきではないか、と。そんな気がしてね」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「実は、怒鳴られたにもかかわらず、二回三回…って、何回も話し合うことになるんですよ。それで、宮さんが考えてたある企画もあるんですけど、それは宮さんがいうような、子供を対象にした企画だったんですけど、僕はどこかで『宮さん、そういうもの(戦争モノ)をやっておかなければどこかで後悔する』なんて思ったものですから」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「それこそ、秋かな。10月くらいかな。宮さんが『分かった鈴木さん。暮れまで考えさせて』って。『映画になるかどうか、やってみるよ』って」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「それで、その話を間空けたんですけど、暮れが差し迫ったとき、宮さんから『鈴木さん、やるよ』って言ってくれて」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「それで始まったっていうのが、この『風立ちぬ』なんですけどね」

相反する宮崎駿の人物像/破壊衝動と愛

渋谷陽一「鈴木さんがおっしゃるように、宮崎さんは好戦的というか。僕が宮崎駿論を以前書いたんですが(風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡)、宮崎さんの根底にあるのは破壊衝動である、と」

鈴木敏夫「はい」

渋谷陽一「僕はそう思うんですね。それで、人間好きなように言われているけど、宮崎さんは人間嫌いだし。それで全てを焼き尽くしたい、今あるものを焼き尽くしたい、と。強い衝動を持っている。だけど、誰よりも今あるものを愛したい、という思いが両方ともある人ですね」

鈴木敏夫「はい」

渋谷陽一「焼き尽くしたい、破壊したいって部分の宮崎駿というのは多く語られることはないんですが、それが本質であるってことは確かだと思うんですよ」

鈴木敏夫「うん」

渋谷陽一「皆さんは、実は映画を観ながら、宮崎駿映画のカタルシス、実は破壊したいカタルシスをお客さんは楽しんでいるわけですよね。あの有名な巨神兵が焼きつくすシーンから、それからポニョにおいて、洪水ですべての世界が水によって飲み尽くされてしまうあの映像的なダイナミズム。あそこに映像的なカタルシスを感じているんですけど、そこにあるのは宮崎さんの一種、破壊衝動というか否定衝動っていうのは間違いないと思うんですが」

鈴木敏夫「はい」

渋谷陽一「それを誰よりも理解しているのは、鈴木さんで。そこの根底にある宮崎さんの好戦的という言葉は適切かどうか分かりませんが、何かモノに対して戦いを挑むという資質があるっていうのはあると思うんですね。それが宮崎エンターテイメントの根底にあるっていうのは、あると思うんですよ」

鈴木敏夫「うん」

渋谷陽一「鈴木さんもおっしゃっているように、兵器好きである意味戦争的なモノにマニアックな興味を持つ宮崎駿が、なぜあれほど強く平和を求めるのか、人の幸せを求めるのか、平和な世界であるべきだと考えるのか、という二面性。というか、それは鈴木さんの中ではきっと、二面性ではなく統一されたモノであるという認識であると思うんですが、そこをちゃんと描いて欲しい、と」

鈴木敏夫「そうです」

渋谷陽一「そういう思いが強くあると思うんで、そのモチーフとして『風立ちぬ』は、これ以上のものは無いと」

鈴木敏夫「おっしゃるとおりです。あと、得意技を封じたらどうなるかも興味あったんですよ」

渋谷陽一「ふふ(笑)」

鈴木敏夫「はっきり言えば(笑)宮崎駿って、昭和16年生まれですよね。そうすると、戦争終わった時に4歳。そして当然ね、日本が独立する過程で、戦時中のことが当然話題になる。その中で当然、兵器のこともあったわけで。そうするとね、いたずら描きで何かを描くとき、その世代の子供は兵器とかを描いた。ただ、その一方で反戦デモに参加でしょ?(笑)」

渋谷陽一「ふふ(笑)」

鈴木敏夫「戦闘機の絵を描きながら、一方で反戦デモをする。その大矛盾を1人の人間が抱えてるっていうのが、日本の戦後でしょ?」

渋谷陽一「そうですね」

鈴木敏夫「そしたら、それを映画にすべきかと思ったんですよ。分かりやすく言っちゃえば。その葛藤を見たかったんです。宮さんの」

渋谷陽一「それは、宮崎さんには仰ったんですか?」

鈴木敏夫「僕はなんとなくニコニコして(笑)」

渋谷陽一「ふふ(笑)言わないんだ(笑)」

鈴木敏夫「だって、出るのに決まってるんですよ。苦しみますよ」

得意技を封じることで生じる良さもある

鈴木敏夫「…もののけ姫ってあったでしょ?」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「あれは、色んな言い方なんですが、自分の得意技を封じているんですよね。一言でいえば、空を飛んでないでしょ?」

渋谷陽一「そうですね」

鈴木敏夫「飛べないんだもん。その中でどうするかでしょ?それがあの映画の粘りを生んでいる。そういうものができるに違いないって、期待値があったのは確かです」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「それはだって、戦闘機出して大々的に銃撃…そういうものはできないよ。その苦しむ様、それが良いですよね」

渋谷陽一「恐ろしいプロデューサーですよね(笑)」

鈴木敏夫「なんで?(笑)僕はプロデューサーってね、一番大事な資質って、野次馬だと思うんですよ。自分で作るワケじゃないんだもの。そしたら本人が、『これやりたい』ってヤツをやっちゃダメですよね(笑)」

渋谷陽一「ふふ(笑)」

鈴木敏夫「そういうもんじゃないかなぁ」

映画『風立ちぬ』とは

渋谷陽一「『風立ちぬ』は、大人向けな映画になってるんですか?それとも大人も子供も楽しめる?」

鈴木敏夫「大人ですね(笑)」

渋谷陽一「はっはっはっ(笑)大丈夫ですか?興行的に」

鈴木敏夫「興行?興行はだって東宝がやることだから(笑)」

渋谷陽一「ふふ(笑)そういうこと言っていいんですか(笑)」

鈴木敏夫「だって、面白いんだもん。日本が戦争をやったことも知らない人が多い時代でしょ。それはキチンと教えるべきかなって思ったんですよ。年寄りとしては」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「日本というのは、かつて戦争をやったんだと。それは始めたのは60~70年前のことよ、と。そうするとなんていったってその時代は、見ていくと不景気と貧乏、病気。それで政治は大不安定でしょ?その中でみんな戦争に突入していく。当然、若者たちはいた。その中でみんなどう生きたんだろうか…と。これは面白いですよね」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「当然、恋もあっただろう。それって…やってる内に思い始めたんだけど、どんどん今の時代がそこに近づきあるって、最近はちょっと思ってますね」

渋谷陽一「なるほどね」

鈴木敏夫「凄い面白い作品ですよ。だって、めちゃくちゃですよ。いい意味ですけどね。実在の人物、堀越二郎っていう人がいたわけでしょ」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「同時代の文学者・堀辰雄。宮さんって堀辰雄好きだから、この二人を1人の人物にしてね、主人公に設定ですよ。ありえないでしょ?よくそんなこと考えるなぁって(笑)」

渋谷陽一「えぇ」

鈴木敏夫「これは原作に書いてあったんだけど、『自分が好きになる相手、ナオコは最初から薄幸である』と。要するに、堀辰雄の小説のヒロインは、みんな結核だから」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「死んじゃうことは分かってるんですよね。そうすると、その人物に対して、死ぬことを分かっていながら結婚を申し込む。当然、幸せな期間は短いと決まっている。その中での悪戦苦闘、見てみたいですよね」

渋谷陽一「あぁ(笑)…鈴木さん的には、宮崎さんのシナリオが終わった段階で、『これは凄いぞ』って感じだったんですか?」

鈴木敏夫「漫画で大体の予測はありましたね。『これは面白い映画になるな』って」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「模型雑誌でそういうことをやる意味っていうのは、『模型雑誌だから描いていいかな。でも、映画にはしちゃいけない』っていうのは分かってるんですよ」

渋谷陽一「なるほど、」

鈴木敏夫「でも、そこでね、どうやってバランスをとるのかっていうのが面白いわけですよね。だから面白くなると思ったんですよ。実際、そうだしね。凄く良いですよ」

『風立ちぬ』のコピー:"生きねば"の意味

鈴木敏夫「宮さんって、ヒロインとの出会いにまず命懸ける人でしょ?」

渋谷陽一「ええ」

鈴木敏夫「これは凄いですよね」

渋谷陽一「宮崎駿作品初の本格ラブロマンスですかね?見つめるくらいの?」

鈴木敏夫「見つめるでは終わらないですよ(笑)これはあんまり言っちゃうと、面白くなくなっちゃうけど。絵コンテになってくるでしょ?かつて描いたことがない領域に入っていくわけですよ」

渋谷陽一「やったぁ(笑)」

鈴木敏夫「色々ありますよ。そこで、言い訳する人がいるんですよ。スタッフから近しい人、取材の人に対して『これはやるの反対した作品だ』と(笑)」

渋谷陽一「ふふ(笑)」

鈴木敏夫「『鈴木さんがやれって言った。作品がそういうことを要求するから、やらなきゃいけない』って(笑)二言目には、『鈴木さんが、鈴木さんが』って言って。でも、やりたかったんでしょうね」

渋谷陽一「でしょうね」

鈴木敏夫「『風立ちぬ』はね、宮さん畢生の凄い作品になるんじゃないかなぁ。僕が思い始めてるのは、宮さん、色々作ってきたけど。激しいのから心優しいのまで。それでまず思ったのは、もののけ姫。それからナウシカも思い出しましたね。ナウシカですねぇ」

渋谷陽一「ほぅ」

鈴木敏夫「ナウシカの原作の方の状況があるじゃないですか」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「同じ所に追い込まれるんですね

『力を尽くして、これを為しなさい。力を尽くして生きなさい』

鈴木敏夫「…今回のキャッチコピーをどうしようかと思ってたんですが…宮崎駿って人が、『風立ちぬ』を漫画で描いてたときからそういう言葉を繰り返してたんですけどね。『力を尽くして、これを為しなさい。力を尽くして生きなさい』」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「ふと思ったんですけど、これは宮さん、この言葉をどこから持ってきたんだろう、と。なんと、旧約聖書」

渋谷陽一「へぇ」

鈴木敏夫「僕、全然知らないですよ。ただ、これは堀田善衛って人が、最後に出した本が『空の空なればこそ』なんですが。その最後に書いた文章が、それに触れてるんですよ」

渋谷陽一「宮崎さん、堀田善衛フリークですからね」

鈴木敏夫「ええ、そうなんです。旧約聖書の伝道の書にこんな言葉があったんですよ。『全て汝の手に堪うることは力を尽してこれをなせ』…これかぁって思ってね」」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「『力を尽してこれをなせ』…戦争の激しい時代に、一番激しい生き方をするってことは、戦争反対することでしょ?投獄されることになる。だけど、多くの人はそれができない。じゃあ、何をやったかって言うと、与えられた環境の中で、与えられたことをやるっていうのがみんなでしょ」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「そこで、ふとナウシカのことが思い浮かんで。ナウシカの最後のセリフってよく覚えてましてね。これかなって思ったんです。コピーは」

渋谷陽一「はい」

鈴木敏夫「宮さん、こう書いたんです。ナウシカが座り込んで吐く言葉。『生きねば』っていうんですね」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「『力を尽してこれをなせ』って、そのまま使ったら固いでしょ?でも、それを翻訳すると『生きねば』そういうことなのかなって」

渋谷陽一「あぁ」

鈴木敏夫「ブルーレイを作るので、紅の豚を観てたんですけどね。この『風立ちぬ』を作りながら、紅の豚を観るとね、その深さが伝わってきて(笑)」

渋谷陽一「あれは始めて大人を主人公にした作品ですけどね。結局、豚にしちゃったけど」

鈴木敏夫「アレもね、1920年代、丁寧に描いてるんですよね。大インフレ。『国のためにお前は…』って言われると、『それは人間に任せておけ。俺は豚だから』って(笑)非常に斜に構えて世の中を見ている話でしょ?そうすると、あの人の生き方にも通じるところがあるって思うと、宮さんってイカしてるなって改めて思ったんですよね。それが面白い。宮崎駿が」

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タグ : 宮崎駿,風立ちぬ,鈴木敏夫,渋谷陽一,

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