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北野武監督のキャスティング方法、映画撮影の裏側

2013.01.29 (Tue)
2013年01月28日放送の「ショナイの話」にて、北野武監督のキャスティングプロデューサーを務める吉川威史がゲスト出演していた。

キャスティング・プロデューサーとは

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高須光聖「キャスティングプロデューサーというのは、どんな映画でもそういう方がいらっしゃるんですか?」

吉川威史「基本は、プロデューサーがやるんです」

高須光聖「あぁ、やっぱりそうなんですね」

吉川威史「ところが、プロデューサーが仕事が段々増えていって、プロデューサー1人でキャスティングやることが出来なくなったんです」

高須光聖「うん、うん」

吉川威史「だから、『主演の2人だけ決めておくから、周りのキャスティングは誰かがやってくれないかな?』みたいな感じなんですね」

高須光聖「たけしさんの場合は、どういう風な流れで、どういう順番でキャスティングをされるんですか?たけしさんはまず、『こういう映画やりたい』って始まるんですよね?監督で」

吉川威史「はい」

高須光聖「それで台本ができて、その本をいち早く見せていただくわけですか?」

吉川威史「もちろん、もちろん」

高須光聖「最初に見て、たとえばアウトレイジだったりしたら、『この本だったら、この人かなぁ』みたいな感じで決めていくんですか?」

吉川威史「みなさん勘違いされるんですが、僕は決めてないんです」

高須光聖「はい、はい」

吉川威史「僕は、その役にハマった俳優さんを、推薦する仕事なんです」

高須光聖「うん」

吉川威史「推薦するだけだったら、誰だってできるじゃないですか」

高須光聖「そうですね」

吉川威史「だけど、『この人にしたいけど、スケジュール空いてるの?』ってなると、それをやっぱりリサーチして、『この作品のスケジュールは大丈夫ですよ』って確証を持たないと、ここに推薦できないんです」

高須光聖「なるほど」

吉川威史「あと、その人たちの予算がハマるのかとか、そういう裏打ちをして、『この中から決めてください』って言うんです」

北野武監督のキャスティング


高須光聖「たけしさんは一目で『この人』って決めるんですか?」

吉川威史「はい。『これはこれ』『これはこれ』って」

高須光聖「迷わないんですか?」

吉川威史「迷わない。迷う場合もありますが、『これで良いんじゃない?』って」

高須光聖「主役クラスは、そのように決めないでしょ?」

吉川威史「でも…この(アウトレイジ・加藤役)三浦友和さんの役も、僕は何人か候補を出して」

高須光聖「差し支えなければ、どんな方がいらっしゃいます?」

吉川威史「忘れちゃいました(笑)」

高須光聖「またぁ(笑)でも、吉川さんの中で、三浦友和さんがなると思ってました?」

吉川威史「心の中では、三浦友和さんになると面白いなって思ってました」

高須光聖「思ってました?それはどういうところを見てですか?」

吉川威史「だって、こういう役を三浦友和さんはやったことがないし」

高須光聖「クリーンなイメージというか、いいお父さんのイメージですよね」

吉川威史「だから、北野さんは大体、逆へ逆へってキャスティングしていくわけですよ。良い人を悪い人で使おうとして、悪い人を良い人のイメージで使おうとするんです」

高須光聖「うん、うん」

吉川威史「それを何となく分かってたんで、多分、友和さんに手がいくかなって思ってたんです」

「北野武」流の俳優の関わり方


高須光聖「意外と使ってみると、『この人、こういうこと出来なかったかぁ』っていう、役者さんは『こういうのは出来るけど、こういうシーンは苦手なんだなぁ』っていうのあるじゃないですか。そういうとき、失敗した、って思うことないですか?」

吉川威史「たまに、スタッフに撮影中、『こいつダメだぞ』って言われるんですけど」

高須光聖「ふふ(笑)」

吉川威史「でも、僕はできると思って出してるんですよ。それが出来ないっていうのは、それは申し訳ないけど、演出部とかスタッフが、もう少しこの人を上手く使ってくれればできるはずだって」

高須光聖「いや、それにしても、『さっきから見てるとNG出してる…肩身の狭い思いをするなぁ』って思うことないですか?」

吉川威史「その辺、たけしさんは厳しくて、ちょっと出来ないなって思ったら、どんどんセリフを削っていくんです」

高須光聖「それは松本人志もそうですね。どんどん変えようって言って変えますね」

吉川威史「北野さんは、俳優さんに無理をさせないんです。恥をかかせないんですね」

高須光聖「ふぅん」

吉川威史「セリフが出ないって時には、『カンペ作ろう』って言って。1回ありましたよ。セリフ出ないんですよね」

高須光聖「しょうがないですよね(笑)…たけしさんに質問される役者さんっていらっしゃるんですか?」

吉川威史「たまにいらっしゃいますけど、監督はあまり質問されるの好きじゃないんですよね」

高須光聖「あぁ、そうですか(笑)」

吉川威史「『好きにやっていいよ』って。たけしさんは、やっぱり自分はおわらい芸人だって思ってて。お笑いで飯を食ってる人間が演技の世界にきて、演技の世界で飯を食ってる人に外から来た人間がとやかく言えないよねって」

さらに、以下のように語っていた。

北野武監督の映画撮影スケジュール


吉川威史「『その男、凶暴につき』とか、『ソナチネ』くらいまでは、一週間撮影して、その次の一週間は、テレビの方の撮影になるんです。だから、撮影が一週間おきだったんです」

高須光聖「はい」

吉川威史「それで、一週間撮影したら、次の時の撮影の時には、全然、話が変わってるんですよ」

高須光聖「あら…自分の中で進んでしまってるんですね」

吉川威史「2週間目からは台本を持っていないスタッフがいっぱいいて。だから、最初の頃、俳優さんには『セリフはガチガチに入れて来ないでくれ』って言ってたんです」

高須光聖「あぁ」

吉川威史「セリフを覚えてこないでくれって。だって、現場で『今日はこれやるから』って紙に書いて渡すんですよ」

高須光聖「役者さんの技量が問われますね」

吉川威史「今回の『アウトレイジ ビヨンド』では、まず準備稿の3っていうのがあって。準備稿の3ってことは、もうその前に1、2って印刷してるんですよ。それで、撮影稿っていうのもあって。これだけでも、相当お金掛かってますよね(笑)」

高須光聖「掛かってますよね(笑)」

吉川威史「それで、中身も相当変わるんです。ページによっては、半分も変わるところもある」

北野武監督のオーディション


高須光聖「俳優さんで、今までで『ちょっとこの人違うな』って人いました?」

吉川威史「今でこそ、豊川悦司くんはスゴイ有名ですけど、オーディションで当時は、劇団三○○(さんじゅうまる)のペーペーだったんです。それで、沖縄のチンピラのオーディション(3-4x10月)で僕が呼んだんですよ」

高須光聖「はい」

吉川威史「監督はもちろん、オーディションに来ないんですよ。それで、ビデオで撮影してセリフ一言ずつ渡してやってもらって」

高須光聖「うん、うん」

吉川威史「それで監督に見せたんですけど、チンピラのオーディションですから、怒鳴り散らす感じになるんですよ。だけど、豊川悦司だけは、1人静かに、『ぶっころすぞ…いい加減にしろよ』って言ったんです」

高須光聖「そこも演出だなぁ」

吉川威史「後日、監督は『沖縄の組長にしよう』って言ったんです」

高須光聖「チンピラの役が?」

吉川威史「えぇ。それで、僕らがビックリして『組長はもう少しベテランの貫禄のある人がいいんじゃないですか?』って言ったら、監督が『いや、こういう若い組長いるんだよ』って言って。なんで知ってるのか(笑)」

高須光聖「見たことのあるような感じですね(笑)…逆に、『これ…どうなの?』って思ったときはないですか?」

吉川威史「ありますよ」

高須光聖「その時は?」

吉川威史「その時はさり気なく、『この人が一押しですけど、違う方も用意してますけどね』って言って(笑)」

高須光聖「『じゃあ、こっちにしようかな』って時もあるんですか?」

吉川威史「最初のうちは、推してたのと別のものを選ばれるってことがあったんですよ。でも、最近は信用してくれて」

高須光聖「何作やってからですか?」

吉川威史「ここ5~6年じゃないですかね…松本人志さんは、どのようにオーディションされるんですか?」

高須光聖「松本ですか?松本は、だいたい自分で言った人の資料をもらって、会う前に決めますね」

吉川威史「実はね、会うと断りづらいんです。だから、北野さんはオーディションにあんまり出ないんです」

高須光聖「そうですか」

新人の発掘方法


高須光聖「新人をどういう視点で、どういう風に発掘されるんですか?」

吉川威史「舞台をよく観るようにしてますね。僕はAの人にしようか、Bの人にしようかって迷うときあるじゃないですか。それでキャリアを見るんですね」

高須光聖「はい」

吉川威史「それで、テレビドラマをたくさんやってる人か、舞台をたくさんやってる人かって選択になったら、僕は舞台をたくさんやってる人を選ぶんです」

高須光聖「それは何故ですか?」

吉川威史「やっぱり、お客さんを目の前にして、お金をとって演技をするってキャリアをたくさん積んでる人のほうを、僕は信用するんです」

現場で目まぐるしく変わる北野武監督の指示


高須光聖「現場には全部行かれるんですか?」

吉川威史「全部行きますね」

高須光聖「それはどうしてですか?」

吉川威史「結構、現場で話が変わるわけですよ。そうすると、直接聞けるし、その場で対応しなきゃいけない」

高須光聖「なるほど」

吉川威史「昔、沖縄に行ったけど『すみません、出番が無くなりました』って言って帰ってもらったり」

高須光聖「辛い役ですねぇ」

吉川威史「『役が無くなったけど、羽田に向かってる?止めよう、止めよう』って慌てて止めたり。一番酷かったのは、『みんな~やってるか!』って映画で、水戸かどっかの空港で撮影したんです」

高須光聖「はい」

吉川威史「それで行ったら、チーフ監督が飛んできて、『吉川さん、吉川さん。監督がAV女優呼んでくれって言ってるんですけど』って」

高須光聖「はい(笑)」

吉川威史「『何に使うの?』って訊いたら、『AV女優が、スチュワーデスだったって設定にしたいって言ってるんだよ』って言われて」

高須光聖「そうですね。どこに電話するんですか?」

吉川威史「そういう脱ぎ関係の事務所があるんですよ。ですけど、朝9時なんですよ。その関係の人は、みんな寝てますよ(笑)」

高須光聖「そうですよね(笑)」

吉川威史「マネージャーに電話して、1人送ってくれって。どんな子がくるかって分かんないから(笑)」

高須光聖「何歳かも分かんないし」

吉川威史「12時過ぎにやっときて。それがなかなか良い子だったんですよ(笑)」

高須光聖「ふふ(笑)」

吉川威史「それで無事に撮影は進行したんですけど、あれが僕、現場にいなかったら、対応できないですよ…1つ騙されたことがあって。『ソナチネ』で、スナックで銃撃戦があって」

高須光聖「はい」

吉川威史「前の夜に、殺し屋が入っていくシーンがあるんですけど、そうするともの凄いギャラリーが集まったので、『俺要らないよね、撮っといて』って帰っちゃったんです」

高須光聖「えぇ?」

吉川威史「自分がいると、撮影にならないってことで。それで居ない方がいいからって言って、指示して帰っちゃったんです」

高須光聖「へぇ」

吉川威史「東京からきた俳優さんが、殺し屋ってことで『セリフはないですけど、北野さんを撃ちますから』って呼んでるわけですよ」

高須光聖「はい」

吉川威史「それで翌日、昼間の中の撮影なんですよ。僕、その頃は『もう仕事ないだろ』って思って悠々と構えてたら、助監督が飛んできて、『殺し屋役としてやってきた東京からの俳優は、単なるお客にしよう。中にいたお客さんを殺し屋にしよう』って言い出して」

高須光聖「ガラっと変わりますね」

吉川威史「『東京の俳優に説明しておけ』って言われて。それ、俺の仕事ですか?って(笑)」

高須光聖「ふふ(笑)」

吉川威史「僕らはすごいバタバタしてたんです。慌てふためいて準備してたんだけど、その話が技術パートに伝わってなかったんです」

高須光聖「びっくりしますね」

吉川威史「東京からきた俳優さんに照明が当たってるんだけど、全く別方向から銃撃があるから、照明さんもビックリしちゃって(笑)」

高須光聖「えぇ」

吉川威史「『こっち、全然、照明当ててないけど大丈夫?』ってなって」

高須光聖「はいはい」

吉川威史「『これでいく』ってなって。観てくれた人はわかりますけど、お客さんにばっかり照明が当たってて、暗闇から銃撃されるんです」

高須光聖「でも、その方が意外性がありますね」

吉川威史「助監督の報告を聞いて、パッと変えたの。逆にしたの」

高須光聖「スゴイなぁ」

吉川威史「その裏で、いかに僕らが慌てたか(笑)」

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