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映画評論家・町山智浩による「難解映画 アイズ・ワイド・シャット」の謎解き

2013.12.23 (Mon)
2013年12月22日放送の『たまむすび』(毎週月-金 13:00 - 15:30)にて、映画評論家である町山智浩がゲスト出演していた。そこで、スタンリー・キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』の解説を行っていた。

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あらすじについて

伊集院光:トム・クルーズとニコール・キッドマンが出演していて。トム・クルーズがセレブな、お医者さんで男前でお金持ちで。子供一人で、傍目からは幸せそうに見える夫婦なんだけども。

町山智浩:はい。

伊集院光:薬物を吸引したことで、ニコール・キッドマンが変なことを言い出すんですよね。夫婦間ではイヤなこと。「昔、みんなで旅行に行った時に、横にいた将校を見ていて、あの人に口説かれたら、寝たかもしれないわよ」みたいな。

町山智浩:そうなんです。そういう告白をするんです。

伊集院光:トム・クルーズが、それに凄いヤキモチをやいて。

町山智浩:「だったら、俺もしちゃうぞ」と。

小林悠:あんなこと、言わなくていいですよね。

伊集院光:ふふ(笑)まさにその通りで、あんなこと言わなければ良い。でも、それで浮気しちゃうなら、映画として分かるんです。ところが、トム・クルーズはしてしまいそうなシチュエーションには見舞われるんだけど、できないというか、しないんです。

町山智浩:はい。あそこでセリフの中で、「女というのは浮気しない生き物だと思っているでしょ?」っていうんです。「バカじゃないの?そんなことないわよ」って話をするんです。引き金を引かれてしまうんですね。「俺もモテたよな」みたいな気持ちになるわけですね。

伊集院光:「そんなこと言うんなら、俺も…」って気持ちになりますよね。

町山智浩:それで、夜のニューヨークに迷い出て行って、最初はコールガールの部屋に行くんだけど、ぎりぎりで出来ない。それで次は貸し衣装屋に行くと、少女が相手をしてくれそうになるんだけど、出来ない。その後、噂を聞きつけて、今度は巨大なそういうことをするパーティーがあると聞きつけるんですね。

伊集院光:巨大な、大金持ちが集まるパーティーですよね。

町山智浩:そこに潜入するんですね。いい感じになるんだけど、相手の女の子に「殺されるわよ。今すぐ、出なさい」って言われるんですね。翌日になって、「あの体験はなんだったんだろう?」って思って、前の晩に行った場所に行くと、全然そんなことになってない。

伊集院光:はい。

町山智浩:最初に会ったコールガールは、HIVに感染しているということが分かるんですね。しかも、昨晩の場所で自分を助けてくれたらしい女性が、遺体で発見されるんですね。調べれば調べるほど、本当にあのパーティーが行われているか分からなくなる…ということなんですね。

『アイズ・ワイド・シャット』の原作『夢小説』

町山智浩:『アイズ・ワイド・シャット』の原作は、『夢小説』って言うんです。夢だって言っている。

小林悠:どこからどこまでが、夢なんですか?

町山智浩:それが分からない。どこにも夢だってことは書いてないのに、タイトルだけ『夢小説』って書いてあるんです。

伊集院光:ヒントに、「謎解き映画」「胡蝶の夢のような部分がある」ってところまでヒントをもらってたから、そんなことは頭の片隅にあるんですけど、どこからどこまでが夢かは分からないですよね。

町山智浩:そう。完全に夢ですよ、とはしてなくて、本当にあったかのようにもしている。だから、どちらかは分からないんです。見てても。

伊集院光:はい。

町山智浩:原作小説は、19世紀のウィーンで書かれたものなんですが。

伊集院光:そんな古いんですね。

町山智浩:アルトゥル・シュニッツラーという作家で。彼の友人にジグムント・フロイトという人がいて。心理学者ですけども、当時、『夢理論』というものを発表したんです。

伊集院光:はい。

町山智浩:フロイトの夢理論というのは、「夢はデタラメなものではなく、本人の無意識の欲望が夢の中に出てくるんだ」と。

伊集院光:はい。

町山智浩:起きている間は、重石が乗っている状態。寝るとその重石がどくので、思ってることや気づいていないことが出てくるんだ、と。それを発表して、その理論を小説にしたものが『夢小説』なんです。

伊集院光:へぇ。

町山智浩:夢かもしれないけど、現実の欲望であると。何度も浮気をしようとすると、失敗するというのは、夢によく出てくるんですね。夢の中で、夢が叶いそうになると、直前で失敗するんです。夢はやったことしか出てこないから。

伊集院光:ほぉ。

町山智浩:食べてみたいものがあったとして、それを食べようと思っても、味が分からないから、食べられないんです。

映画に散りばめられた手がかり

伊集院光:そこまで考えると、トム・クルーズ愛せるね。アイツは、根っこから浮気ができてないヤツで。

町山智浩:出来ないんですね。あの秘密パーティーの中で、合言葉が「フィデリオ」って言葉が出てくるんですけど、「フィデリオ」って言葉は、忠実って意味で、浮気しないって意味なんです。

伊集院光:ベートーヴェンのオペラかなんかで。

町山智浩:タイトルなんですね。それは、政治犯になってしまった夫を、忠実な妻が男装して潜入し、夫を助けようとする話なんです。

伊集院光:はい。

町山智浩:あれは、浮気をしようとすると、パッと「忠実」という言葉が入ってくる、という表現なんです。

伊集院光:分かりやす過ぎる映画は、面白くないじゃないですか。でも、分からない映画は、ポカーンってなるじゃないですか(笑)

町山智浩:えぇ(笑)

伊集院光:僕の中で、『アイズ・ワイド・シャット』解説が無いと分からないですね。

町山智浩:分からないんです。僕も最初は分からなかったんです。

伊集院光:あまりに手がかり無いじゃないですか?

町山智浩:手がかりはいっぱいあるんです。新聞を売ってて、その見出しが「命からがら助かった」と書かれてるんです。あれはトム・クルーズが、命からがら助かった状態のときに、なぜか新聞の見出しがそうなっているということで、現実ではないということを示しているんですね。

伊集院光:はぁ~。

町山智浩:奥さんの名前がアリスで。『不思議の国のアリス』のキャラ、アリス。「夢を見た」という意味も込められているんです。

伊集院光:なるほどね。

『アイズ・ワイド・シャット』のテーマ・メッセージ

町山智浩:映画自体は分かりにくいんですけど、映画のメッセージ自体は普通のメッセージで、ものすごく分かりやすいんですね。言いたいことは。

伊集院光:え?

町山智浩:タイトルの『アイズ・ワイド・シャット』という意味は、「目を大きく閉じて」、という意味なんですけど、アメリカの結婚式のときにオッサンがよく使う言葉がもとになってるんです。

小林悠:え?

町山智浩:日本の「3つの袋」のような、「Keep your eyes wide open before marriage, and half shut afterwards.(結婚前は目を十分開け、結婚後は目を半分閉じよ)」という言葉なんです。これは、結婚前は大きく目を開いて結婚相手を決めなさい。でも、結婚後は、目を半分閉じておいた方が良い、つまりは妻や夫のことを根掘り葉掘り聞きすぎると、結婚はうまくいかないよ、という意味なんです。

伊集院光:へぇ~。

町山智浩:いかにもオッサンが言いそうなことでしょ?(笑)でも、『アイズ・ワイド・シャット』は、目を見開いてる状態で、見ちゃいけないんですよ、本当は。

伊集院光:なるほど。ああいうものまで見ちゃってるのは不健全というか。

町山智浩:そうそう。互いにある程度の秘密はあるんだから、そこには触れないで、という夫婦の秘訣みたいなものです。

伊集院光:俺は夫婦で見なくてよかったなぁ、って(笑)

町山智浩:夫婦で見た人は、凄く気まずかったでしょうね。キューブリック監督はこの作品を遺して亡くなってるんですが、奥さんが言ってるんですね。「この映画は、キューブリックの遺言なんだ」と。この映画の最後のセリフは、「FU○K」なんですね。

伊集院光:そうだ。

町山智浩:それはお互いに夫婦の欲望を知ってしまって、浮気しないとかそういう幻想はないんだ、と分かってしまった…どうしよう、という時に、奥さんは「2人でいるんだから、やることは1つでしょ」と。そういうことで、終わるんですね。

小林悠:はい。

町山智浩:結婚式の挨拶で、「ケンカしたらすぐに、する」という(笑)

伊集院光:ふふ(笑)

町山智浩:結婚式の格言ですよ(笑)

伊集院光:さすが町山さんだなっていうのは、もう一度観たくさせる解説ですよね。

町山智浩:実は、キューブリック監督の「2011年宇宙の旅」という映画ともよく似ていて。「2001:A Space Odyssey」って原題なんですけど、Odysseyっていうのはギリシャのトロイの木馬を発明した実際の人物ですけど、国に戦場から帰ろうとするんですけど、美女に誘惑されて帰れなくなる。でも、美女の誘惑を振りほどいて、何年もかけて帰ってくる、という人物なんですね。つまり、この話もそうなんですね。

伊集院光:へぇ。

町山智浩:それを、宇宙の旅、ということで宇宙版の話にしたんです。そして、『アイズ・ワイド・シャット』っで、夫婦の話に持ってきて映画人生を終わらせた、というところが非常に面白いなぁって思うんですね。

伊集院光:こんだけ解説してもらって、なんですが、小林悠アナが言った「あんなこと言わなくていいじゃん」ってことですよね。夫婦であんなことを言うと、おかしなことになるじゃん、と。

町山智浩:そうなんです。

伊集院光:そこが、まさにど真ん中のテーマにある、と。

町山智浩:はい。

小林悠:それで良かったんですね。

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