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町山智浩、映画『万引き家族』は是枝裕和監督が一貫して描き続けてきたテーマの集大成であると指摘

2018.06.19 (Tue)
2018年6月19日放送のTBSラジオ系のラジオ番組『たまむすび』(毎週月-金 13:00-15:30)にて、映画評論家・町山智浩が、映画『万引き家族』は、是枝裕和監督が一貫して描き続けてきたテーマの集大成であると指摘していた。



町山智浩:是枝監督は、元々テレビのドキュメンタリーを撮っていた人なんですよ。

赤江珠緒:はい。

町山智浩:事実関係を非常に調べて、調査して。それを暴いていくという調査報道系の人なんですね。

山里亮太:はい。

町山智浩:はい。この人が20代の終わりに作ったドキュメンタリーが福祉切り捨ての中で死んでいった人たちの実態を追いかけていく、というものなんですよ。

赤江珠緒:へぇ。

町山智浩:もうこの人、テーマがそこからずーっと変わっていないんですよ。

赤江珠緒:そうですね、20代の時から。

町山智浩:そう。20代の時から一貫していて。だから、この映画に関して現在の政治的な部分を批評しているという風に言わることもあるんですが。

赤江珠緒:はい。

町山智浩:だって、20代からやってんだもん。

赤江珠緒:そうか、91年、1991年から。

町山智浩:そうなんです。政権、関係ないんですね。ずーっと今、起こってることなんですよ、この福祉切り捨てという問題は。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:その中で死んでいく人たちがいる、と。

赤江珠緒:はい。

町山智浩:是枝監督の非常に大成功した初期の作品で、『誰も知らない』っていう映画がありまして、2004年の。

誰も知らない


映画「誰も知らない」あらすじ・ネタバレ・結末

山里亮太:柳楽優弥さんの。

町山智浩:そう、そう。あれは実は『万引き家族』とほとんど同じような話なんですよ。

赤江珠緒:ふぅん。

町山智浩:これ、4人の小学生、子供がね、ダメな母親に置き去りにされて、YOUさんが演じてんですが。

山里亮太:YOUさん(笑)

町山智浩:その中で、長男が一番小さい子を殺しちゃったっていう事件があったんですね。なんとか、子供たちの面倒をその長男がみてたんですが、長男が。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:ところが、実際に彼は犯罪なのかっていうことを是枝監督が調べていくと、どうもそうではない、と。

山里亮太:うん。

町山智浩:有罪か無罪かってことに、2つに分けてしまうから、司法であったり、行政であったり、マスコミは。

山里亮太:うん。

町山智浩:でも、その有罪か無罪かから、こぼれ落ちてしまう現実っていうもの、実態があったはずだ、と。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:たしかに、殺してしまったことは悪いことだけども、じゃあ彼は悪人なのかっていうと、そうじゃないじゃないか、と。

赤江珠緒:そっか。

町山智浩:犯罪者は、必ずしも悪人ではないということ、その事件の中に入っていくんですね。

赤江珠緒:ああ。

町山智浩:だから、ドキュメンタリーと同じ手法で。それで、結局、誰も知らないものを見ようとするんですよ、是枝監督は。

赤江珠緒:ああ。

町山智浩:だからもう、『誰も知らない』っていうタイトルは、今回の映画もそうですけど、全ての是枝監督のテーマになっているんです、キーワードなんですね。

赤江珠緒:ああ、そうか、そうか。

町山智浩:この『誰も知らない』っていう映画、今見ると凄いんですけど、カメラがね、物凄く子供に近いんですよ。

山里亮太:ああ。

町山智浩:カメラの位置が、高さが。凄い近いところで、ほっぺたギリギリのところから撮影しているんですよ。

山里亮太:ああ。

町山智浩:凄いのは、これ、完全に子供の目線で撮っているんですよ。

赤江珠緒:そういうことですね、なるほど。

町山智浩:上から目線で「これは犯罪だ」とか、「ヒドイね、ヒドイ親だ」とかそんなのじゃなくて、「いや、そういうのを全部取っ払って、子供の中に入ってみよう」っていうことなんですよ。

山里亮太:へぇ、なるほど。

町山智浩:でね、この映画はアメリカでも凄く注目されたんですけど。今、日本で公開されている映画で、『フロリダ・プロジェクト』という映画があるんですね。

映画「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」あらすじ・ネタバレ・結末

山里亮太:はい。

町山智浩:これ、『たまむすび』で紹介したんですけども、フロリダの安モーテルで暮らしてる、ダメな母親、シングルマザーと、その娘の話なんですね。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:それを、カメラが娘の視線で撮っていくんですよ、8歳の。

山里亮太:はい、はい。

町山智浩:これ、恐らく『誰も知らない』の影響を受けて撮られた映画だと思います、アメリカ映画ですけども。

赤江珠緒:へぇ。

町山智浩:ジャッジしないで、子供目線で入ってくんですよ。なおかつ、でも大人の目線があって、その悲惨な子供たちをなんとかしてやりたいんだけど何もできないっていうもどかしさがあるんですね。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:これはその『フロリダ・プロジェクト』の中で、悲惨なその親子を見ながら、血が繋がってないから何もできない、ホテルの管理人さんの目線なんですよ、是枝監督の目線は。

赤江珠緒:ああ。

町山智浩:だからこれ、多分、影響を受けているんですね。

赤江珠緒:へぇ。

町山智浩:で、もう一つのテーマ、有罪か無罪かで2つに分けてしまうのが、司法や、行政や、マスコミだって言ったんですけども、これ、この前の前ぐらいに撮った、『三度目の殺人』っていう映画は、そういう話でしたよね。これは見ました?

三度目の殺人


映画「三度目の殺人」あらすじ・ネタバレ・結末

赤江珠緒:『三度目の殺人』、はい。

町山智浩:あれは弁護士が福山雅治さんで、最初は上から目線で事件を担当していくと、どんどん、どんどん本当の事件の実態が見えなくなってくんですよ。

赤江珠緒:ええ。

町山智浩:だからまさに、有罪か無罪かで分けられないものが見えてくることで。これも同じテーマですよね。

赤江珠緒:是枝監督は、本当にそのテーマが一貫されているんですね。

町山智浩:凄い一貫しているんですよ。『万引き家族』は、でも、今までの過去の作品、全部の集大成的なところがあって。

赤江珠緒:ああ。

町山智浩:だからね、これだけ凄く成功しているんだと思うんですよ。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:さっき言った落語的要素、リリー・フランキー的な要素?(笑)

赤江珠緒:はい。

町山智浩:セックスした後に、背中にラーメンのスープについていたネギがついてて、それを舐める的な要素みたいなのもあるんですけど(笑)

山里亮太:いや(笑)

町山智浩:あれと、『誰も知らない』は、結構ヒリヒリするようなドキュメンタリー要素なんですよ。

山里亮太:ああ。

町山智浩:落語とドキュメンタリー、別々だったんですけど、『万引き家族』はくっついているんですよね。

赤江珠緒:ああ、そうだ。

町山智浩:笑えるところと、くっついてるんです、残酷なドキュメント要素。だから、これは集大成なんだと思うんですよ。

赤江珠緒:そうか、『万引き家族』は同時に色んなものが存在してますもんね。

町山智浩:そうなんです、過去の作品にあったものなんです、全て。っていうのはね、『誰も知らない』の中に、既にパチンコ屋の駐車場の自動車の中に、置き去りにされている幼児っていうモチーフは出てきているんですよ。

赤江珠緒:ああ、そうですか。

町山智浩:そう。だから、多分、そのまま放っておいたら子供は死んでしまうかもしれないんですけども。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:そこに、リリー扮する車上荒らしが来れば、子供は助かるかもしれないわけですよ。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:そういう話ですよね。

山里亮太:うん。

町山智浩:だから、『万引き家族』っていうのは実際は、おばあちゃんが死んだのに、それを隠して年金を受け取り続けてた家族、という事件が実際にあって。

山里亮太:はい。

町山智浩:それともう一つ、親子で釣具屋で釣り竿を万引きした家族がいて。その2つの実際にあった事件を、もとにしてはいるんですけども。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:その中に、車上荒らしでパチンコ屋に置き去りの子供を救うっていう形で、『誰も知らない』でちょっとだけ触っていたところが、グッと押し出されて来るんです、今回。

赤江珠緒:へぇ。

町山智浩:で、もう一つは、『そして父になる』っていう映画ですよね。

赤江珠緒:はい、はい。

町山智浩:あれもだから、実際にあった赤ん坊の入れ替え事件をもとにしていて。

赤江珠緒:病院で取り違えられてね。

町山智浩:病院で取り違えられて。1人のお父さんは、福山雅治くん演じるエリートの建築家で。もう1人は、リリー扮する貧乏なお父さん(笑)

山里亮太:はい(笑)

町山智浩:で、子供入れ違ってたから、元に戻そうとするんですけど、それで実の親のところに子供が来るわけですけど、福山君のところにね。でも、子供はリリーの方を選ぶんですね。

赤江珠緒:うん、そうですね。

町山智浩:ごちそうも食べられて、おもちゃもなんでも買ってもらえて。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:で、いい家に住めるんだけど、それを子供は求めない、と。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:で、血が繋がってないリリーの方を求めるという話が、『そして父になる』で。あれは、テーマはこの今回の『万引き家族』の中でもセリフで出てきているんですね。

山里亮太:ああ。

町山智浩:産んだからって親になれるわけじゃないんだよ、と。親になるっていうのは、単に血が繋がってるっていうことじゃないんじゃないか、と。

赤江珠緒:ああ。

町山智浩:、セリフの中で、その通りのが出てきますけども。

山里亮太:はい。

町山智浩:あと、実の親ってなにっていう。産んだけども、いじめたり、育児放棄したり、パチンコ屋の駐車場に置き去りにする親と、全然血が繋がってないんだけども、大事にする親と。どっちが実の親なのっていう。

赤江珠緒:そうなんですよね。

町山智浩:でも、それは『誰も知らない』でも描かれていることで、親というのは意識してならないと、なれないものなんだよっていうことですよね。

赤江珠緒:ああ。

町山智浩:で、それともう一つ、エリート問題があるんですよ。

山里亮太:エリート問題?

町山智浩:『そして父になる』の福山君を見てると、本当にムカムカするんですよ、エリートで(笑)人の心が分からなくて。

そして父になる


映画「そして父になる」あらすじ・ネタバレ・結末

山里亮太:うん。

町山智浩:で、途中でもってリリーに説教されるシーンがあるんですけども(笑)

山里亮太:うん。

町山智浩:それって、今回も同じことをやってますよね。

山里亮太:今回で言うと…

町山智浩:緒形直人さん扮する、松岡茉優ちゃんの本当の父親のところに。

赤江珠緒:ああ、はいはい。

町山智浩:すげぇいい家に住んでて、金持ちで、超気取っているんだけど、絶対にそこから逃げ出した理由があるわけじゃないですか、松岡茉優さんが。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:イヤな家だったわけですよ。貧乏な、ゴミ溜めみたいなところでも、そっちの方が幸せだったわけじゃないですか。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:それって、『そして父になる』と全く同じことをやっているんですよ。

赤江珠緒:ああ、そうか。

町山智浩:カネじゃないんだよっていうね。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:だから、ごちそうを食べるよりも、それこそ90円のコロッケを食べている方が、本当に好きな人と食べてれば、どんな安いものでも美味しいですよね。

山里亮太:うん。

町山智浩:で、ムカつくやつとメシ食っている時は、どんな高級な料理でもクソマズいじゃないですか。

山里亮太:マズイ。

町山智浩:人間って、ご飯って味で食べているんじゃないですよね、実際は。

赤江珠緒:ああ、そういうことですね。

町山智浩:だから、お金でもないし。また、結構セリフで言っているんですけど、「お金で繋がってるんじゃないの?人は」みたいな話があって。「じゃあ、血で繋がってるの?」みたいな話があると、リリーが胸をポーンと叩いて、「ここで繋がってんだよ」って言うんですよね。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:「ハートで繋がってんだよ」って言うんですよ。でも、ハートで繋がってるって、法律的には全く何の保証もないんですよ。

赤江珠緒:たしかにそうですね、現実にはね。

町山智浩:だから、この悲惨な状況を見て、そこに司法とか行政が入ってくれば助けられるんじゃないかっていうふうに思っちゃう人がいるでしょ。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:「この映画は、こうした福祉というものを強化した方がいいという主張なんだ」みたいに捉える人もいるでしょうね。

山里亮太:うん、なるほど。

町山智浩:でも、ここで実際、途中で福祉の人たちが入ってきて、行政が入ってくるとどうなるかっていうと、このハートだけで繋がってる家族は、バラバラにされちゃうんですよ。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:誰も守らないから。結婚もしてないし、彼らは。子供も血が繋がってないし、おばあちゃんとも。だから、法律でも血でも繋がってないと、これは政府だったり、法律だったり行政は、そうした人たちを守るようにはできていないんですよ。

赤江珠緒:たしかに。正しいっていうのは、何が正しいのか、結局分からないですね、そう言われると。

町山智浩:だから、高良君が凄く上から目線で話して、出てくるじゃないですか、高良健吾君が。

山里亮太:ああ、はいはい。

町山智浩:役所の人としてね。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:彼が言うことは全部正論なんだけど、でもそうじゃないじゃないですか。その正論からこぼれる、有罪か無罪かでこぼれる部分に人情があるんですよね。

赤江珠緒:うん。

町山智浩:人情なんですよ、実は。

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タグ : 万引き家族,是枝裕和,

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